構造設計のすすめ

構造設計のすすめ02
組織設計事務所における構造設計者 part1

建築の質は、各担当者のセンスや技術力だけではなく、プロジェクトにかかわるメンバー間のコミュニケーションに依存すると言ってもいいでしょう。

建築設計の理想的な流れは、大きなコンセプトがキックオフミーティングで直ぐに決まり、あとはそれに肉付けしていくかたちで意匠・構造・設備が各所を調整しながら前に進んでいくことです。
 
初期段階で大枠のコンセプトが共有できると、プロジェクトの軸が最後まで振れることがありません。また、その過程では各担当者がお互いの立場を尊重し、相手の仕事の内容を知っておく必要があります。そのためには、密なコミュニケーションが欠かせません。

組織設計事務所の利点

私はいわゆる組織設計事務所に身を置いています。組織設計事務所は、意匠設計・構造設計・設備設計といった設計業務から、積算や工事監理までを遂行することが可能で、比較的大規模な建築物の設計・監理を行っています。

組織設計事務所が有利なのは所員の多様性です。社内で様々な分野に関する情報交換が可能です。

アトリエ設計事務所と比較すると人数は多く、所内でのコミュニケーションが活発で、お互いの業務についても、社内で容易に学ぶことができます。

また、Wikipediaの組織設計事務所のページには、『設計する建物は経済効率や使用性を重視される傾向が強いため、アトリエ設計事務所のようにアクロバットなデザインを行うことは少ない。』と記載されているのですが、実際は(構造に関して言えば)、日本建築構造技術者協会のJSCA賞および構造デザイン発表会や日本構造家倶楽部の構造デザイン賞に関しても、組織設計事務所の受賞・発表が多くなり、彼らの活発な構造デザイン志向が感じられます。組織設計事務所もがんばっているのです。

また、組織設計事務所では多種多様な用途の建物の構造設計を経験することができます。構造的にはどれが大きく違うなどありませんが、特殊な荷重条件やスパンの設定、敷地の制約など各用途で細部が変わってきます。

構造形式も、耐震・免震・制震を経験できますし、構造種別も、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造…などを経験できます。多様な知識を身に着けることができ、ひとつとして同じ建物を経験することはないでしょう。

築100年以上の重要文化財の耐震診断業務なんて仕事もあったりなかったり…

組織設計事務所での働き方

弊社は中堅の組織設計事務所ですが、全社で数百人の所員が在籍しています。やはり社内でのコミュニケーションは活発で、気軽に他部署の所員に声をかけ、わからないことを即時に打ち合わせることが可能です。

また、組織であるがゆえに福利厚生もしっかりしています。育児休暇や介護休暇も容易に取得できますし、最近ではフレックス制のような働き方の導入も開始されました。

他にも、残業してなんぼの世界だったのが、働き方改革の波により、年間月平均45時間以下などの時間規制があり、弊社内においても同様の動きがあります。

私は残業時間の少ない所員を評価していますが、所員が多ければ多いほど違う意見もあるということも当然のことと言えるでしょう。

違う意見と言えば、「図面は密に細部まで描く」という所員と、「設計図なんだから大体を描いておけば良い。あとは現場で納める」という大局の所員が存在します。現場や審査において信頼を得られるのはどちらか…?という話です。

チームか…孤独か…

組織であるがゆえに、出世の道についても考えなければなりません。つまりマネジメントです。課題としては、役員にしても上層部は技術者上がりの人間が多いため、上手な営業や経営ができているとは思えない点です。

弊社の構造設計者は本社と全国の各支社を併せても30人程度で、意匠設計者、構造設計者、設備設計者の人数比は概ね5:1:1です。1プロジェクトに携わる人数もそれに比例し、小規模なプロジェクトの場合は、構造担当者が1人の場合もあります。

1人で向き合う仕事は孤独との闘いですが、意匠設計者との5対1のやり取りは、綱引きのようなせめぎあいで非常に楽しくやりがいのあるものです。自分の考えを示しながらも、お互いが相手の意見を尊重・吸収し、着地点を目指さなければいけません。

構造設計者は人当たりの良さも大切ですが、意見を通す説得力を持ち合わせていなければならないのです。

構造設計の部門は、人数が少ないゆえに、大きなプロジェクトを受注した際は非常に慌ただしくなります。弊社は今年度、異動、転勤、育休、休職が重なり悲惨な状況に陥ったときもありました。

そんなときは、組織設計事務所の強みとして、他支社の人員に救援を求めることができます。現在も大きなプロジェクトが複数動いており、勤務地を問わず各事務所を横断するかたちで各々が業務に取り組んでいます。

また、就職氷河期と呼ばれる働き盛りの世代がすっぽり抜けているため、その直上直下の人材は、その穴埋めを意識しながら、将来部署を背負っていく覚悟を以て業務に取り組まなければなりません。

私自身も年々責任が重くなりながらも、根本的な働きを見直す時期が来ていることを感じています。しかし、組織設計事務所とは言いつつも「組織化」できていない事務所が多いのが現状です。